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草原の椅子 宮本輝 著。1999年上梓。(2016年5月25日読了)

  • toyonobunkyokai
  • 2016年11月14日
  • 読了時間: 3分

50代の男性が母親に虐待されて育った少年らとともにパキスタンのフンザを目指して旅する物語。宮本輝が阪神・淡路大震災で被災したことをきっかけに、シルクロード6700キロ、40日にわたる旅に出た体験をもとに、その後50歳のときに執筆された作品です。(Wikipedia抜粋)

 宮本輝の作品が好きです。『幻の光』『青が散る』『ここに地終わり 海始まる』といった作品を読み、静かに心弾ませるのが楽しみです。

 幼少期の多くを兵庫、大阪で過ごした宮本輝は、作品の多くが大阪を舞台に描かれている。この作品でも阪急電車、梅田、池田、宝塚といった大阪の地名が多々出てきてとても親近感を覚える。登場人物の言葉も大阪弁が息づいている。それはきつい印象の大阪弁ではなく、おっとりとした、温かい雰囲気を持つ言葉。私の好きな大阪弁です。

 さて、今回の作品は50歳を迎えた中年男が主人公。大手会社でそこそこの地位にあるがどこか物足りない、満足できない、そんな男です。その男が同じく中年の男と友達になる。仕事を通じて関係はあった二人だけど、ある時改めて「仕事を離れて友達になろう」と友情が始まったわけで。とても昭和の男の雰囲気がプンプンしてきます。それから仕事のこと、子供のこと、夫婦のこと、女性関係のことといろんな日常を織り交ぜながら話は淡々と進んでいきます。宮本作品の多くにいえることが、この淡々と進んでいく展開。しかしそれが退屈ではなく、なにかちょっと考えさせるものがあります。それは端々に出てくる言葉。

「地上にはもともと道はない。歩く人が多くなればそれが道になる」

「いつ死んでもいいように、まず清潔に生きたいな」

「正しいやり方を繰り返しなさい」

 この作品の中には何気ない日常と会話の間にたくさんの言葉が詰まっています。それが時々琴線に触れるのが心地よく、自分の中にじわーっと染み込んできます。そういった言葉を味わうのは宮本作品の魅力のひとつでしょう。

 作品を通じてキーワードになるのは阪神・淡路大震災。主人公の体験は澱となって心に沈み込んでおり、思考の根本となっています。人生のはかなさや厭世観が時々顔を見せます。それを男同士励まして、大阪人らしく明るく乗り越えていく。「そういう日常ってあるなあ」と読みながら考えたり、ふっと笑ってみたり。素晴らしい言葉と日常のやりとりがテンポよく、読んでいて小気味良い感じを味わえます。

 物語は40歳を迎える女性と虐待により傷ついた4歳の少年を加えて展開していきます。何の縁もないこの組み合わせで、旅に出ることになっていく。行先はパキスタン。また、何でパキスタン?と思うけど、それは作品を読んでみましょう。

 パキスタンのフンザというところが旅の行先になるのですが、それはきっと映画のほうで効果が出ていると思います。言い忘れましたが、この作品は2013年に映画化されています。1か月半にもわたる長期ロケを敢行し、壮大な砂漠、雄大な山々を背景に撮影された作品です。ぜひ見てみたいと思います。

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